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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)2143号 判決

控訴人 株式会社第一相互銀行

右訴訟代理人弁護士 平田政蔵

被控訴人 永井正

右訴訟代理人弁護士 根本昌己

同 根本はる子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、金一四八万八、六三二円および右金額に対する昭和四四年四月一日から完済にいたるまでの間日歩五銭の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決および仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠の関係は、次に付加するほか、原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

第一控訴人の陳述

一、昭和四三年一一月、本件主債務者たる訴外明和印刷株式会社が倒産し、その代表取締役中尾実は病臥し支払能力がなくなったので、控訴銀行の担当者高原利博および松久泰三らが被控訴人に保証債務の履行を求めたところ、被控訴人は一五〇万円ないし二〇〇万円程度なら保証した記憶がある旨を述べ、その後も右両人らが被控訴人の保証の極度額についての記憶を明白にさせるため、再三にわたって面接しあるいは電話で被控訴人に連絡したところ、被控訴人は一五〇万円程度の保証をしたことを認めた。

二、次いで、控訴銀行の右担当者が昭和四四年六月一一日被控訴人とその弁済方法を協議したさい、被控訴人の経営する合名会社印文社が本件保証債務を肩代りし三九回に分けて分割弁済する旨の合意が成立し。それに伴い右印文社の運転資金として一〇〇万円の融資を受けたいとの申し入れもあり、被控訴人がその自宅、工場およびその敷地などを担保に提供し、印文社の顧問弁理士たる訴外丸山敏子を保証人とすることを条件に右融資契約も成立した。

ところが、右貸出実行の当日になって、被控訴人から、(1)本件保証債務の延滞利息の長期棚上げ、(2)前記担保物件に付する抵当権等の登録税等の貸増し、(3)新規貸付金の利息の取止めなど追加条件の申入れがあり、控訴銀行としては、右のうち(1)の条件は承諾したが、その他の条件を拒否したため、一〇〇万円の新規融資は不調となり、その後被控訴人は本件保証債務の履行をも言を左右にして実行に出ない態度に出てきた。

三、上述のとおり、被控訴人は保証極度額一五〇万円程度については、保証の事実を認めていたのであり、かりにそうでないとしても、昭和四三年一一月頃から同四四年八月頃までの間に本件連帯保証債務を追認したのである。

第二被控訴人の陳述

一、控訴人の陳述第一項に記載の事実は争う。

二、控訴人の陳述第二項に記載の事実も争う。被控訴人の控訴銀行に対する一〇〇万円融資の申入れは、昭和四四年夏頃控訴銀行の銀行員と雑談中、たまたま被控訴人が近々富士電機とも取引がはじまり一〇〇万円位の資金が必要である旨を述べたことから、控訴銀行の銀行員の熱心な勧誘からはじまったものであるが、形式上一応その準備にとりかかり、話がほぼ煮つまったところで、控訴銀行から突如として本件債務の肩代りや連帯保証その他の希望条件なるものの申出があったので、被控訴人は控訴銀行のやり方のあくどさに怒りを覚え、一〇〇万円の融資申入れの取消しをしたため、この融資申入れ問題は終止符が打たれたのである。

三、控訴人の陳述第三項の事実は否認する。

第三証拠の関係〈省略〉

理由

原審証人中尾実、同松久泰三の各証言およびその証言によって成立を認めうる甲第一号証(ただし、被控訴人作成名義部分を除く)によると、控訴銀行は昭和四二年三月一五日訴外明和印刷株式会社(以下、訴外会社という)との間に、手形貸付、手形割引、証書貸付等に関する相互銀行取引契約を締結したことが認められ、これに反する証拠はない。

そこで、右取引契約にもとづく訴外会社の債務につき被控訴人が連帯保証をしたか否かを判断する。原審証人松久泰三の証言によれば、控訴銀行と訴外会社との間に前記取引契約の締結された日の前日、被控訴人は自己の資産信用等の調査に来訪してきた控訴銀行の事務担当者松久泰三に対して、右訴外会社のため保証人となる意思のある旨を表明したことが認められるが、右証言および原審における被控訴人本人尋問の結果を併せると、右保証意思の表明は、たんに条件によっては、将来ある程度の金額の範囲内であれば保証契約を締結してもよいという意向のある旨を示したにすぎず、そのことはそれ以前にも訴外会社の代表者である中尾実にも告げていたことが認められる。そして、右保証契約の締結自体については、これに沿う原審証人中尾実の証言があり、また控訴人が二〇〇万円ないし一五〇万円位の限度で保証意思を有すると述べた旨の原審証人松久泰三、当審証人高原利博の各証言があり、控訴人が被控訴人の右保証を証する保証書として提出している甲第一、第五号証中の同人名下の印影が同人の印章によって顕出されたものであることは、原審および当審証人福島千恵子の証言によってこれを認めえられるが、右証人松久泰三の証言および成立に争いのない甲第三号証によれば、右保証書中の被控訴人名下の印影がいずれも、そのうち一通の保証書とともに控訴銀行に差し入れられた印鑑証明書にある被控訴人のそれと明らかに異なることが認められ、右保証が被控訴人の真意にもとづくものであるとすれば、このような保証書の被控訴人による差入れも、控訴銀行による受領、保管も甚だ奇異に思われることならびに原審および当審における証人福島千恵子の証言および被控訴本人尋問の結果に対比するときは、右松久泰三および高原利博の各証言部分は、いずれも前出中尾実の言に影響されて一方的に思いすごしたことによるものと思われ、これを採用することができず、また右甲第一、第五号証のうち被控訴人作成名義部分も真正に作成されたものとは認められず、他に被控訴人が控訴人主張の頃、その主張のような内容による連帯保証契約を締結する旨の意思表示を控訴人に対してしたことを認めうる証拠はない。さすれば、被控訴人が本件連帯保証をした旨の控訴人の主張は、これを採用することができない。

次に控訴人は、被控訴人が昭和四三年一一月頃から同四四年八月頃までの間に本件連帯保証債務を追認したと主張し、原審および当審証人松久泰三の証言および当審証人高原利博の証言中には一部主張にそう供述部分があるが、原審および当審にかける被控訴人本人尋問の結果および前記のとおり本件連帯保証をしたと認められない被控訴人がすでに発生ずみの多額の債務の連帯保証を追認すべき合理性を肯認しうる証拠がないことを考慮するときは、前記供述部分は、これまた希望的な受け取り方にすぎないものとして採用することができず、他に右主張を認めるのに足りる証拠がない。したがって、控訴人の右主張も採用の限りでない。

してみれば、控訴人の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、失当たるを免れない。

よって、控訴人の本訴請求を排斥した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 畔上英治 裁判官 岡垣学 兼子徹夫)

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